化学療法について | 大阪府済生会吹田病院

化学療法について

化学療法とは

がんの治療の方法としては現在「手術」、「放射線」、「化学療法」の3種類が中心となっています。この中で「化学療法」は化学療法剤(抗がん剤)を点滴・もしくは内服することで、がん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を破壊する治療法です。化学療法剤は投与されると血液中に入ることで全身にくまなく行き渡り、体内のがん細胞を攻撃・破壊します。そのため、今後全身に広がる可能性のあるがん細胞や、すでに他の場所へ転移していたり、全身に広がっていると考えられるがん細胞を治療することができます。

 

がん治療では、がんの種類や大きさ・部位など様々な状況を総合的に判断して、手術・放射線・抗がん剤などを単独で、もしくは組み合わせて行います。手術・放射線による治療は局所治療と言われ、局所的ながんの治療には強力な方法ではありますが、全身に広がった、また広がる可能性のあるがんを治療するには、化学療法はより効果的な治療法といえます。 これらはどの治療法にも適応と限界があり、すべての状況に対する完全な治療法は今のところ見つかっておりません。手術の前に放射線や抗がん剤を使用することでがんを小さくしてから手術を行ったり、術後の再発の危険性を下げるために術後に化学療法を行うなど、必要に応じていくつかの治療法を組み合わせることで、それぞれの限界を補い合って治療する場合もあります。このような治療法をがんの集学的治療と呼んでいます。

 

化学療法の最大の目的は治癒ですが、がんの種類や状況によっては完全な治癒を目指すことは難しく、がんの増殖を遅らせること、がんの転移や再発を防ぐこと、がんによる症状から解放されることで全身状態(クオリティー・オブ・ライフ(QOL):生活の質)を改善することなどを目的とすることもしばしばです。治療内容につきましては患者さんに最善のものを選択しますが、どのような治療が患者さんにとって最善かは、患者さんの生活パターンや考え方などによっても異なってきます。当院では、正確な病状や治療法の情報を提供した上で、最善の治療を患者さんやご家族とご相談の上で一緒に考えていきたいと考えております。また、担当医師だけでなく、専門看護師や薬剤師などを中心としたチーム一丸となって、化学療法に伴う身体的・精神的負担に対するサポートに全力を注いでおり、今後も更に充実させていく予定としております。

化学療法施設概要

病床数 12床(ベッド4台、リクライニングチェアー8台)
面談室 副作用などの相談や薬剤師による服薬開始時の説明などプライベートを確保した環境で実施しています。

化学療法センターのご紹介

場所 本館2階 透析センターと入り口同じ
開設時間 月曜日~金曜日 8時30分~17時00分
化学療法センター前室
化学療法センター内部

化学療法治療当日の流れ

化学療法による様々な症状と対策

治療のお薬は、個々の体表面積(身長や体重から割り出した面積)や、体重によって投与される量を決定しています。しかし、治療薬を投与することで、様々な有害な事象(副作用)を生じてしまいます。以下はその代表的な副作用と対策です。

抗がん剤投与 自分で分かる副作用 検査で分かる副作用 症状緩和対策
当日
  • 投与中:アナフィラキシー(過敏症状)
  • 血管外漏出(点滴漏れ)
  • アレルギー反応
  • 脈拍の乱れ
  • めまい
  • 発熱
  • 注射部位の痛み
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢
  • 痒みや体調の不良を感じたら、症状を良く観察し、一時間経過しても症状が治まらないようであれば、病院に問い合わせましょう。
  • 下痢や嘔吐時は、処方されているお薬があれば内服しましょう。
2~3日
  • 全身倦怠感
  • 食欲不振
  • 吐き気・嘔吐
  • 口内炎
  • 安静にして体を休ませてあげましょう。
  • 水分を十分に取りましょう。
1週間 7~14日
  • 口内炎
  • 下痢
  • 食欲不振
  • 胃の重い感じ
<骨髄抑制>

  • 白血球数減少
  • 血小板低下
  • 外出時は、マスクを着用しましょう。
  • 生ものや発酵食品の摂取を控えましょう。
2週間 14~28日
  • 皮膚の角化
  • 色素沈着
<臓器障害>

  • 肝機能障害
  • 腎機能障害
  • 腎機能障害
  • 医師の指示に従い、安静や水分補給などに注意しましょう。
  • スキンケアにも注意しましょう。
3週間
  • 脱毛
  • 神経障害
  • 耳鳴
<骨髄抑制>

  • 血中ヘモグロビン低下
  • 脱毛に関しては、ウィッグや帽子などで気分転換をしましょう。
  • バランスの良い食事を心がけましょう。
2~6ヶ月 <骨髄抑制>

  • 肺線維症
  • うっ血性心不全
  • 息苦しさなどを感じたら医師の診察を受けましょう。

過敏症(アレルギー症状含む)

お薬を使用する場合に、注意が必要です。しかし、個々に薬物に対して異物とみなし過敏な反応をすることで、じんま疹やかゆみなどを伴う症状が現れます。 症状の出現時期は、投与開始直後から投与後2日間に起こりやすいともいわれ、お薬が体の外へ排泄されるまでの間は、出現する可能性があります。 対策としては、過敏症状を抑えるための飲み薬や、点滴などにより症状が出現しないように前投与を行います。 パクリタキセルやセツキシマブなど前投薬が必ず必要であるとされている治療薬などもあります。 過敏症状が出現したら、出現し始めた時間、体のどの部分にどの程度・範囲で出現しているのかを確認し、医療スタッフへご相談下さい。広範囲に及ぶ場合は、呼吸困難などの症状が現れる場合があります。

骨髄抑制

骨髄で白血球・赤血吸・血小板は、分化産生されます。抗がん剤は、がん細胞の異常増殖や分裂を抑制(抑える)しますが、正常な細胞の内、骨髄や粘膜、毛根などの分裂・増殖の盛んな細胞も同時に攻撃してしまいます。これにより、骨髄抑制として、各種の血球成分の産生が遅れてしまいます。

血球の役割

白血球:生体の防御(免疫) 赤血球:酸素、栄養の運搬 血小板:止血

発現時期

血球により産生時間が異なるため注意が必要な時期や、症状の出現時期は違います。 白血球は、抗がん剤投与後8~14日頃に最も数が少なくなると言われています。 赤血球は、なだらかに減少するため、抗がん剤投与を繰り返すことで数が減少していきます。 血小板は、白血球同様に10日前後で最低値となります。 これらは、血球産生能が低下することによる症状ですので、血球産生が元の状態になれば、通常の数値に回復します。

症状

白血球が少なくても、症状として感じることはありません。しかし、感染しやすい状態にあるため、一度ウイルスなどに感染すると、重症化しやすく、命の危険が及ぶこともあります。 赤血球が少なくなると、息切れや動悸、痩せといった貧血症状が出現します。 血小板が少なくなると、歯肉出血や鼻出血といった出血が見られたり、皮膚に点状の出血斑などを認める場合があります。

対策

白血球減少症
  • 感染症の予防として、手洗いの励行やマスクを着用し、体内への細菌やウイルスの侵入を防ぎましょう。
  • 規則正しい生活習慣を取り入れましょう。
  • 人混みへの外出を避け、買い物などは、人の少ない時間帯を選んでマスクを着用し外出しましょう。
  • 毎日体温を測り、平熱を理解しておきましょう。
血小板減少症
  • けがなど不注意による出血を起こさないように注意しましょう。
  • 採血や注射を受けた後は、しっかりと止血を確認しましょう。
  • 歯肉出血を認めたら、歯ブラシを柔らかめの物に変更しましょう。 また、定期的に歯科受診をして歯石など除去してもらい歯肉炎などを予防することも大切です。
赤血球減少症
  • 貧血症状を認めたら、休息をとりましょう。
  • 活動時は、ゆっくりと活動し、休息をとりながら移動するようにしましょう。
  • 体温が低くなりやすいので、保温性のある衣類を選び、適切に体温調節を行いましょう。

消化器症状

嘔気・嘔吐

抗がん剤治療と言えば、吐き気をもよおしたり、嘔吐(吐いてしまう)が、一般的によく知られています。 嘔吐は、消化管吸収経路から脳の嘔吐中枢を刺激する経路、化学物質が直接脳の嘔吐中枢に働きかけ、過去の記憶により治療=嘔吐というイメージによって大脳から嘔吐中枢へ伝わるなどの嘔吐のメカニズムが解明されました。 これにより、急性の嘔吐、遅発性の嘔吐、予測性の嘔吐と分類され、各々に適した吐き気を抑制する薬剤が開発されています。

対策
  • 吐き気は、我慢せずに主治医と相談して下さい。
  • 柑橘系(レモンなど)の臭いは、吐き気を抑える作用があります。アロマオイルなどを活用するのも良いでしょう。

便秘

手術や、腸蠕動の低下、神経麻痺など様々な原因で便秘が出現します。便通が停滞した状態が長引けば、腸管閉塞などの重篤な状態になることがあります。

対策
  • 主治医から食事制限(繊維質の多い物をとらないなど)がない限り、食事はバランス良く、繊維質を多く含む食品をとりましょう。
  • 水分補給に注意しましょう。
  • 体調が良い日は、無理のない程度に散歩など行い、体を動かしましょう。
  • 便通が整わない場合は、我慢せず便秘薬を使用し排泄できるようにしましょう。

副作用と対策については、一部ご紹介しました。この他にも個人差により副作用出現が見られる場合があります。分からないことや、ご相談などあればお気軽にスタッフまでお問い合わせ下さい。

栄養について

癌細胞ができると人は体力を消耗しやすくなり、より多くの栄養を必要とします。一方で化学療法による副作用(嘔気・嘔吐、食欲低下、下痢、便秘、口内炎・口腔内乾燥、骨髄抑制、味覚障害など)の影響から、十分な食事がとれなくなる場合もあります。その結果さらに体力が低下してしまうと、治療が継続できず、ご本人やご家族にとっても深刻な問題となってしまいます。

当院の化学療法センターでは管理栄養士もスタッフメンバーとして働いています。化学療法中でも、できる限り自然な形で食事がとり続けられるように、管理栄養士が栄養サポートを行っています。

 

食事のことで何かお困りの際は遠慮せずにご相談ください。