対象疾患 | 大阪府済生会吹田病院

消化器外科 - 対象疾患

消化器外科の診療内容

消化管の悪性腫瘍 食道がん、胃がん、大腸がん(結腸がん、直腸がん)
肝胆膵の悪性腫瘍 肝臓がん(肝細胞がん、肝内胆管がん、転移性肝がん)、胆道がん(胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がん)、膵臓がん
肝胆膵の良性疾患 胆石症、総胆管のう腫、膵胆管合流異常症,慢性膵炎など
ヘルニア 鼠径ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア
肛門疾患 内・外痔核、痔瘻、直腸脱
腹部救急疾患 消化管穿孔、虫垂炎、憩室炎、腹膜炎、腸閉塞、腹部外傷など

消化器の代表的な悪性疾患と治療方針

消化管の悪性腫瘍(食道、胃、大腸)

消化器外科領域で扱う悪性疾患は胃がんや大腸がんが最も多く、術前後に化学療法を併用しながら、治療成績の向上に努めています。ガイドラインに沿って低侵襲な腹腔鏡下手術を行っており、胃がんでは約6割、大腸がんでは約8割を占めています。腹腔鏡下手術の導入が最も進んでいる領域です。

食道がん

比較的早期の食道がんでは内視鏡治療や放射線と抗がん剤の併用療法が治療の選択肢となりますが、ステージが2以上の進行した食道がんでは手術による食道の摘出が中心となります。さらに、手術の前に抗がん剤治療(術前化学療法)を行うことで、治療成績が向上することが知られています。食道がんに対する手術は頚部・胸部・腹部の3カ所から手術する必要があり、身体に対する負担や苦痛の大きな手術となるため、胸腔鏡や腹腔鏡を用いた負担の少ない手術を心がけています。

胃がん

胃がんは日本人の罹患率が高いがんの一つです。リンパ節への転移の可能性がきわめて少ない早期胃がんに対しては、外科手術ではなく内視鏡での治療(内視鏡下粘膜剥離術;ESD)が可能です。しかし、リンパ節への転移の可能性が疑われる胃がんに対しては、胃の一部もしくは全部とまわりのリンパ節を手術で切除する治療(胃切除)が選択されます。進行がんの場合は、手術前または後に抗がん剤治療を併用して治療効果を高めることをおこなっています。胃切除が必要な場合でも、さほど進行していない状態であれば、身体への負担の少ない腹腔鏡下での手術が可能です。
一方、リンパ節郭清の必要がない胃粘膜下腫瘍(GISTなど)については、胃を可能な限り温存する手術(局所切除)が適応となります。消化器内科と共同して、内視鏡と腹腔鏡を同時に行い、腫瘍だけをくりぬくように切除する手術(腹腔鏡内視鏡合同手術;LECS)を行っています。

大腸がん

大腸がんも胃がんとならんで罹患率が高いがんの一つで、近年増加傾向にあります。早期に発見されれば内視鏡での治療も可能ですが、進行すると腸閉塞や下血を起こし、手術が必要になります。手術は、そのほとんどを身体への負担の少ない腹腔鏡下に行っており、約80%を腹腔鏡下大腸切除術で行っています。
遠隔臓器(肝臓や肺)への転移を伴うようなステージ4の患者さんにおいても、手術と抗がん剤治療を組み合わせて、肝臓や肺の転移巣に対しても積極的に手術を行っています。その結果、他の臓器のステージ4の患者さんと比較しても良好な治療成績が得られています。
また、肛門に近い部位にできた直腸がんの場合、肛門の温存が困難になり永久の人工肛門になる可能性が高くなります。当科ではこのような患者さんに対して、手術前に抗癌剤治療と放射線療法を組み合わせた治療を行い、がんを縮小させることにより、手術による根治性と、肛門を温存できる(永久人工肛門を回避できる)可能性を高めることを目的としています。腫瘍が縮小した結果、内肛門括約筋切除術(ISR)を含めた肛門温存手術も選択肢のひとつとしています。

肝胆膵の悪性腫瘍(肝臓、胆道、膵臓)

肝胆膵の疾患は診断や治療が複雑であることが多く、難易度の高い手術も多いことから、肝胆膵を専門とするスタッフによる専門性の高いチームで行われることが多くなっています。当院では2008年より肝胆膵の専門チームを発足し、日本肝胆膵外科学会の高度技能修練施設に認定されています。

原発性肝がん(肝細胞がん、肝内胆管がん)

当院には多くの肝障害や肝臓に腫瘍がある患者さんが通院されています。肝がんと診断されたら、内科・外科・放射線科がカンファレンスを行い患者さんにとって最良の治療方針を決定し治療に当たっています。安全に切除ができるときは、切除を第一選択として肝切除を行っています。がんの大きさ・個数・場所・肝臓の状態を考慮しながら、体への負担の少ない腹腔鏡を用いた手術も積極的に行っています。肝臓の表面などにできた内科では治療が難しい肝がんに対しても腹腔鏡を用いたラジオ波焼灼治療を行っています。10cmを超えるような大きな肝がんや門脈に浸潤しているような肝がんでも、治療効果が期待できると判断したときには積極的に切除を行っています。

転移性肝がん

大腸がんの肝転移の患者さんは年々増加していますが、薬物療法の進歩により、以前では切除できなかった場合でも、腫瘍が縮小したり、個数が減ることで安全かつ確実に切除が行えるようになってきました。拡大手術だけでなく、原発性肝がんと同様に、腫瘍の大きさ・個数・場所などを考慮しながら、体への負担の少ない腹腔鏡を用いた手術も積極的に行っています。

胆道がん(胆のうがん、胆管がん、乳頭部がん)

胆道がんとは、肝外の胆道に発生した悪性腫瘍の総称で、肝臓外の胆管に発生する「胆管がん」、胆嚢に発生する「胆嚢がん」、 十二指腸乳頭部に発生する「乳頭部がん」に分類されます。いずれも、遠隔部位に転移がなければ、手術による病変の摘出が最も治療効果が高いとされています。その発生部位により手術術式が異なりますが、根治性を追求した外科治療を積極的に行っています。

膵がん

膵臓がんは、その位置的関係などから発見が難しく、進行も早いため、治療が難しい病気とされています。がんの病期と全身状態を考慮して治療法を選択しますが、遠隔部位に転移がなければ、手術による病変の摘出が最も治療効果が高いとされています。しかし、たとえきれいに摘出できたとしても、再発することが少なくなく、手術前・手術後に抗がん剤治療を行うなど、手術を中心としていろいろな治療を組み合わせて行うこと(集学的治療)により、少しずつ治療成績が向上しつつあります。
膵臓がんの手術は、腫瘍の部位によって術式が異なります。膵頭部がんであれば、膵頭部を摘出するだけでなく十二指腸、胃の一部、胆管、胆嚢などを一緒に摘出(膵頭十二指腸切除術)する必要があり、摘出後には消化管の再建も必要で、おなかの手術の中でも、最も大きな手術の一つとなります。術後合併症は一定の頻度で発生しますが、近年の手術の進歩によって、より安全な手術となりつつあります。治療が難しいとはいえ、がんを少しでも早期に発見できれば、適切な治療により完治の可能性も期待できます。

腹部の代表的な良性疾患や救急疾患と治療方針

胆石症と胆のうポリープ

胆石症は胆石に伴う症状があれば、治療の適応で、手術をおすすめしています。また、急性胆のう炎は内科的治療にて軽快することもありますが、ガイドラインにて早期の手術が推奨されており、迅速に診断を行った上で、的確な治療を行っています。まれではありますが、胆石と一緒にがんがあることもありますので、正確な診断のもと、手術の適応を判断しています。
胆のうポリープの診断は難しいことが多く、十分に精査を行った上で、少しでも悪性が疑われる場合は手術を行います。場合によっては経過観察となり、治療(手術)のタイミングを図るケースもあります。
胆のうの良性疾患では、体への負担の少ない腹腔鏡を用いて胆嚢を摘出しています。

急性腹症

急性腹症とは、急激に発症した腹痛の中で緊急手術を含む迅速な対応が必要とされる腹部の疾患群のことを指します。頻度が高いのは、急性虫垂炎や腹膜炎(胃十二指腸潰瘍穿孔、結腸憩室炎および穿孔によるもの等)、腸閉塞(癒着や結腸がんによるもの等)、急性胆嚢炎などで、緊急手術の適応を厳重かつ速やかに判断し、手術を行っています。

急性虫垂炎

虫垂炎では、腹部全体に広がる腹膜炎では緊急手術を必要としますが、局所に限局している場合には、抗生物質などによる保存的治療をまず行うことが多くなりました。そして、再発予防を目的として、炎症が落ち着いてから虫垂を切除する「待機的虫垂切除術」が広く行われるようになりつつあります。この待機手術は腹腔鏡下に行うことで、より身体への負担が少なくなり、また術後合併症のリスクも軽減させると報告されており、当院でも積極的に取り入れています。

消化管穿孔

胃や十二指腸などの上部消化管穿孔では保存的治療にて軽快することも少なくなく、必ずしも緊急手術を必要とするわけではありません。しかし、小腸や大腸などの下部消化管穿孔による腹膜炎は、敗血症へと移行しやすく致命的な結果となることもありますので、迅速な診断と判断の上、速やかに手術を行い、集中治療を行うことで、救命率の向上を図っています。

腸閉塞

腸閉塞とはさまざまな原因で腸管の内容物がつまり、肛門側に移動できなくなった状態のことをいいます。多くが、術後の腸管の癒着により主に小腸が閉塞する「単純性腸閉塞」です。また、大腸の閉塞は大腸がんによるものや便秘によるものが原因となって起きることがあります。一方、腸管がねじれて血流が悪くなる絞扼性の腸閉塞、「複雑性腸閉塞」は、時間がたつと腸管が壊死してしまうため緊急で治療(手術)が必要となります。

急性胆のう炎

急性胆のう炎は胆のうに炎症が生じ、胆のうがむくんで腫れ、炎症の進行と共に胆のうの壁が壊死していきます。原因の90%が胆石で、胆のうの出口に詰まることで発症します。症状は初期には上腹部の不快感や鈍痛で、炎症の進行とともに右季肋部痛(右の肋骨の下あたり)になり、次第に激痛になります。診断・治療が遅れると重症化し、敗血症や臓器不全をきたすこともあり、早期診断と治療が必要です。治療の基本は早期の手術であり、全身状態を厳密に評価した上で、ガイドラインに則り、主に腹腔鏡下に胆のうを摘出する手術を行います。