肝臓病も糖尿病の合併症 | 大阪府済生会吹田病院

消化器内科 - 肝臓病も糖尿病の合併症

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肝臓病も糖尿病の合併症

糖尿病と脂肪肝の深い関係

糖尿病患者さんは、日本を含め世界中で増加しています。糖尿病は眼、腎臓、神経に障害(3大合併症)を起こす以外に、脳梗塞、心筋梗塞を引き起こすことから、糖尿病の患者さんに対しては、心臓、血管の病気の予防や早期発見に注意して、糖尿病の治療がなされています。

また、飽食の時代となり糖尿病とともに脂肪肝の患者さんも増加しています。脂肪肝は、糖尿病と同じように脳梗塞、心筋梗塞の危険因子です。近年になり、脂肪肝には従来から知られていた非アルコール性脂肪肝“単純性脂肪肝”と、肝硬変や肝臓がんに進行する危険のある非アルコール性脂肪肝炎”NASH“の2種類があることが明らかになりました。

糖尿病患者さんはメタボリックシンドロームの方が多く、一般の人よりもNASHを含めた脂肪肝を合併する頻度が高いことが知られています(J of Hepatol. 2019;71:793-801.)。厚生労働省NASH研究班によっておこなわれた約5,000人の糖尿病患者さんを対象とした研究では、B型肝炎・C型肝炎・飲酒する方もおられましたが、糖尿病患者さんの主な肝障害の原因はNASHを含めた脂肪肝であることが明らかにされています(Shima T: J of Gastroenterol 2013;48:515-525.)。

糖尿病患者さんは肝臓がんで死亡する人が多い

糖尿病学会から、糖尿病患者さんの死因に関する調査が10年毎に発表されています。一般的に日本人はがんで死亡する方が多く、死因の上位に挙げられるのは肺がんや胃がん、大腸がんであり、肝臓がんは5位です。しかし、糖尿病患者さんの死因は肝臓がんが上位で、19912000年の調査では1位(糖尿病 2007;50:47-61.)で、20012010年の調査では2位(糖尿病 2016;59:667-684.)でした。

糖尿病患者さんは5大がんのなかでも肝臓がんによる死亡リスクが最も高い

厚生労働省NASH研究班によっておこなわれた約4000人の糖尿病患者さんを対象とした5年間の追跡調査で、一般の人のがんによる死亡リスクを1.0としたときの糖尿病患者さんの死亡リスクを、標準化死亡率比(SMR)を計算して比較した結果です(図1)。糖尿病の患者さんでは、5大がん(胃がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、肺がん)のうち、肝臓がんが3.6倍と死亡リスクが最も高くなることが示されています。

なぜ糖尿病患者さんは肝臓がんによる死亡リスクが高いのか?

この理由について、糖尿病の患者さんにはNASHによる肝臓がんが多いからであると考えられています。その機序はまだ完全には解明されていませんが、糖尿病患者さんは脂肪肝から線維化が進行して肝硬変になりやすいこと(図2)や、糖尿病自体が発癌を促進することが原因として考えられています(Shima T: J of Gastroenterol 2019;54:64-77.)。

血小板数20万以下では肝臓がんによる死亡リスクが6倍以上

糖尿病患者さんは、肝臓がんの死亡リスクが3.6倍に上昇することを示しましたが、日本に数百万人いる糖尿病患者さん全員に毎年腹部エコーをおこなって肝臓がんを調べることは困難です。ここで、肝硬変に近く肝臓がんの危険が高い患者さんを血小板数によって、絞り込んでいくことが可能です。血小板数が20万以下の糖尿病患者さんは、肝臓がんによる死亡リスクが6.6倍とさらに危険度が高くなることがわかりました(図3)。一方、血小板数が20万よりも高い糖尿病患者さんでは、肝臓がんの死亡リスクは一般人と同じでした。

このような結果から、血小板数が20万以下の糖尿病患者さんは、腹部超音波検査を定期的に受けて、肝臓の状態をしっかりと観察されることが望ましいと考えます。

FIB-4 indexが2.67以上の場合は死亡リスクが14倍に上昇

FIB-4 indexは、AST・ALT・血小板数・年齢によって計算することができる数値で、肝臓の線維化の程度を予測することができます。一般的にはFIB-4 indexが2.67を超えると、肝臓の線維化が進行しており肝臓がんのリスクがあると判断されます。

FIB-4 indexの計算式
FIB-4 index=(年齢×AST)/(血小板数×√ALT)

ご自身のAST・ALT・血小板数・年齢を入力するだけでFIB-4 indexを自動計算してくれるウエブサイトもあります。FIB-4 indexが2.67を超える糖尿病患者さんでは、肝臓がんの死亡リスクが14倍と著明に上昇しますので、肝臓専門医を受診して頂きたいと思います。

糖尿病患者さんの心疾患による死亡リスクは近年低下している

近年、糖尿病患者さんにおいても、心疾患による死亡リスクは低下しています(糖尿病 2016;59:667-684.)。その理由は2つ考えられます。第一に、心疾患に対する治療法の進歩です。新しい薬剤治療や冠動脈ステント治療などにより、心疾患を発症しても死亡率は明らかに低下しています。また、糖尿病による心疾患発症のリスクが広く認知されたことにより、糖尿病患者さんに対して心・血管疾患に対する検査が定期的に行われ早期発見されるようになったことが挙げられます。このため、糖尿病患者さんにおける心疾患の死亡リスクは、一般人とほとんど変わらないレベルまで低下してきました。これに対して、糖尿病患者さんの肝臓がんによる死亡リスクは依然として高いままで、現在では心疾患よりも明らかに高くなっています。糖尿病患者さんにおいて、肝臓がんが最も死亡リスクが高い病気となっています(図4)。

肝臓病も糖尿病の合併症

糖尿病患者さんの死亡原因は、心臓・脳血管の病気、肺炎などの感染症、さまざまな悪性腫瘍(がん)ですが、我々の研究をはじめ様々な研究から、糖尿病患者さんは肝臓がんの死亡リスクが非常に高いことが明らかになってきました。したがって、我々はNASHに代表される肝臓病も糖尿病の合併症と考えています(図5)。

糖尿病患者さんにおいて、血小板数が20万以下であった場合や、FIB-4 indexが2.67以上であった場合は、主治医もしくは肝臓専門医に相談されることをお勧めします。

肝臓病も糖尿病の合併症【健都ライブラリー医療講座 2021年4月18日講演】

執筆者

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シマ トシヒデ

島 俊英

院長

メッセージ
脂肪肝と糖尿病は万病の元です。 血小板数が20万以下の糖尿病患者さんはNASH(脂肪肝)の可能性があるので、主治医にご相談ください。

専門分野

  • 肝疾患(NASH・肝癌・ウイルス性肝炎など)

主な資格

  • 日本内科学会認定 総合内科専門医・指導医
  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医・指導医
  • 日本肝臓学会認定 肝臓専門医・指導医
  • 日本超音波医学会認定 超音波専門医・指導医
  • 日本医師会認定産業医
  • 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
  • 身体障害者福祉法指定医
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