ヘルニアとはどんな病気? | 大阪府済生会吹田病院

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ヘルニアとはどんな病気?

ヘルニアとはどんな病気?

ヘルニアセンター開設

ヘルニアセンター科長 植野 望

ヘルニアセンター科長

植野 望

2020年4月に当院に着任いたしました。これまで消化器外科を中心に、特に腹腔鏡下手術を専門に行ってまいりましたが、その途上、腹腔鏡下に行う鼠径ヘルニア手術に出会い、多く手掛けるようになったことから、ヘルニアという病気と向き合うようになりました。
そんな縁でこの度ヘルニアセンターが開設されるにあたり、担当することになりました。

ヘルニアとは?

ここでいうヘルニアとは、腰痛の原因となる腰椎椎間板ヘルニアなどではありません。
俗に言う脱腸、正式に鼠径部ヘルニアや、そのほかの腹壁ヘルニアのことを指します。

ヘルニアの定義

語源は脱出を意味するラテン語のherniaで,臓器や組織が何らかの原因で弱くなり出来た体内の裂け目・孔(あな)を通って,本来の位置から脱出した状態をいいます。腹部の内臓が腹膜に包まれたまま孔から腹腔外に脱出し,皮下に膨隆する外ヘルニアと,腹腔内(おなかのなか)に異常に生じた孔に内臓が入りこむ内ヘルニアに大別されます。
一般にヘルニアといえば外ヘルニアを指します。体壁(筋膜)のある部分が年齢とともに弱くなり出来た孔が出口(ヘルニア門)となり、腹圧を持ちこたえられず、内臓が袋状になった腹膜(ヘルニア嚢(のう))をかぶって押し出されたものです。つまり、「臓器や組織が本来あるべき場所から脱出した症状」が、ここで言うヘルニアです。
ヘルニア内容のほとんどは腸管(小腸>>大腸)ですが、膀胱(ぼうこう)や卵巣,脂肪組織などの他の内臓も脱出することがあります。したがって、“脱腸”は正確な呼名ではありません。

ヘルニアのイメージ
主な外ヘルニア

ヘルニアは鼠径(そけい)部で多く、特に鼠径ヘルニアが最も多くみられ、45歳以上では0.7%、60歳以上では3~4%、小児では3.5~5%といわれています。また鼠径部以外の腹壁で起こる腹壁ヘルニアなどがあります。(後述)
鼠径部とは下腹部で足の付け根付近のことをいい、ここには①脚へ通う血管のほか、②男性では精管(精子を運ぶ管)や精巣へ通う血管が、女性では子宮円索(子宮を支える靱帯)が通る

ヘルニアの症状・診断・治療

立ち上がる際、または長時間立っている、もしくは咳込むなどお腹に力を入れた時に膨らみます。男性の鼠径ヘルニアでは陰嚢まで達することもあります。この膨らみは横になったり手で押したりすることによって、消えることがありますが、決して治っているわけではありません。症状としては、腸管が出入りする際の軽い痛みやつっぱり、便秘が起こる程度で、強い痛みなどはありません。
しかし、ときに腸や脂肪の一部がヘルニアにはまりこみ戻らなくなる、嵌頓(かんとん)という状態に陥ります。ヘルニアの内容が腸管であった場合には、腸が詰まる(閉塞する)、いわゆる腸閉塞の原因となり、激しい痛みや吐き気、嘔吐、発熱などの症状をきたします。さら悪化した場合には、ヘルニアの出口(ヘルニア門)で腸が圧迫されることにより腸への血流が絶たれる、絞扼(こうやく)と呼ばれる状態に陥ることもあり、腸管壊死が生じ、腹膜炎(腹腔が炎症と通常は感染を起こした状態)の原因となります。ヘルニアの内容が腸管以外の組織(脂肪、卵巣など)の場合でも、絞扼は生じる可能性があります。
ヘルニアが完成されてしまうと薬やリハビリでは治療できません。また、ヘルニアバンドなどの器具を用いてヘルニアの飛び出しを抑えることは治療ではなく、ヘルニアバンドは医療器具ではありませんので、一部の場合を除いて、当ヘルニアセンターではおすすめすることはありません。
治療法は手術のみです。また、絞扼を生じた場合には、緊急手術となります。
手術法には種類があり、病院や医師、そして患者さんの状態によってさまざまです。手術の種類は異なっても、腹壁に生じた弱い部分や孔を補強もしくは閉鎖するという目的は同じです。

主なヘルニア

1.鼠径部ヘルニア

1-1 外鼠径ヘルニア(間接型)

幼児、若年者から中高齢者に見られる多くは、外鼠径ヘルニアです。
鼠径管を通って腹膜に覆われたままの腸や脂肪組織などが外へ向かって突出します。大きくなると陰嚢にまで脱出してくることもあります。
多くは先天性の素因によるもので、腹膜鞘状突起(男性の場合には、母親の胎内で、腹腔内でできた睾丸(精巣)が腹壁を通過して陰嚢まで降りて行く際の道標となるトンネル。女性にも存在する。)が閉じずに腹膜の袋として残ったものがヘルニアのうの原因となります。
近年、度重なる腹圧による負担など後天的な原因によるものや、先天性と後天的素因の両方を兼ね備わるものもあると報告されています。

1-2 内鼠径ヘルニア(直接型)

鼠径管の入口(内鼠径輪)よりさらに内側の鼠径三角(Hesselbach三角)付近が緩み、鼠径管の出口(外鼠径輪)へ向け押し出される形態を内鼠径ヘルニアと言います。
加齢や生活習慣(スポーツや重労働、咳込みがちな呼吸器疾患など)の影響で組織が弱くなることにより発症し、中高齢以降の男性に多いのが特徴です。

1-3 大腿へルニア

足へむかう大腿血管の内側から腸管がはみ出すヘルニアで、鼠径部のやや下のふともも内側が膨らみます。女性、特に多産の高齢の女性に多いとされています。上記2種類のヘルニアが合併するケースもあります。
最も嵌頓を起こしやすいヘルニアで、早急に治療が必要です。

1-4 閉鎖孔ヘルニア

骨盤の骨をメガネに見立てたときにレンズに当たる部分を閉鎖孔といい、この部分から飛び出すヘルニアを閉鎖孔ヘルニアといいます。平時に診断することは難しく、多くは嵌頓を起こしてはじめて判明します。厳密には鼠径部ヘルニアには入りませんが、当センターでは同様に腹腔鏡下手術で治療いたします。

1-5 鼠径・大腿ヘルニアに対する手術

腹腔鏡下手術と鼠径部切開法があり、当科では主に後者(以下ラパヘル)を第一選択に行っています。

A)鼠径部切開法

足の付け根のヘルニアで膨らんでいる真上付近の皮膚を5cmほど切開します。まずヘルニアの内容をお腹の中へ戻しヘルニアを処理します。続いて、腹壁の筋膜を縫い合わせて補強しヘルニア門をふさぐ方法(従来法)とメッシュと呼ばれる網目状の人工シートを当て布のように使ってヘルニア門をふさぎ腹壁を補強する方法があります。現在ではほぼ、メッシュを用いる方法がとられています。
メッシュを用いる方法では従来法に比べ、術後の痛みやつっぱり感などの症状は少なくなっています。
麻酔は主に腰椎麻酔(半身麻酔)が選択されますが、患者さんもしくは施設によっては局所麻酔や全身麻酔も使用されています。
日帰り手術(当ヘルニアセンターでは行っておりません)は、概ねこの術式で行われています。

B)腹腔鏡(内視鏡)下手術(ラパヘル)

お腹に直径5mmまたは10mmの穴(ポート)を3か所(へそとその左右)に設け、腹腔鏡(筒状のカメラ)によるお腹の中の映像をテレビモニターで見ながら下に示すような器具を用いて手術を行います。(経腹的手術、TAPP法)
鼠径部切開法と同じくメッシュを腹壁内に留置してヘルニア門を周囲に充分な広さにふさぎ、さらに腹壁を補強します。全身麻酔で行います。ラパヘルの利点は、いろいろありますが、重要なものとして、鼠径床(ヘルに門とその周辺)を詳しく観察できることがあります。当センターでは、この鼠径床の様子に基づきメッシュの形状やサイズを決定します。
鼠径部切開法と比較し術後の痛みや違和感が少なく、より早期の社会復帰が可能とされています。

手術中、お腹の中で両側の鼠径部を確認することが出来、反対側にもヘルニアを認めた場合には傷を追加することなく手術を行うことができます。また、完全なヘルニアとはなっていなくても、鼠径部の腹壁の緩みも確実に観察することが出来、場合によってはこれもメッシュで補強することになります。
3泊4日の入院が必要ですが、傷が小さいため術後の回復が早く、手術後の痛みや違和感が少ないことが特徴です。当ヘルニアセンターでは術後の動作制限は行っておらず早期の社会復帰が可能です。概ね手術後3~5日目にはゴルフやジョギング、畑仕事などが開始できます(期間は目安です)。

2.腹壁ヘルニア(鼠径部以外)

先天的、または手術や外傷などによって後天的に弱くなった部分から腹膜に覆われたままの腸や脂肪組織などが外へ向かって突出します。強い腹圧がかかると簡単に突出します。

2-1 臍ヘルニア

臍(へそ)が突出します。ほとんどは先天性で小児に多く起こりますが、その大半が出生後数年以内に消失します。成人の場合は、肥満や妊娠、多量の腹水などが原因で発症することがあります。

2-2 上腹部ヘルニア

腹部の真ん中で、左右の腹直筋をつなぎとめている白線といわれる部分に出来た脆弱もしくは欠損部分から起こるヘルニアです。

2-3 半月状線ヘルニア

腹直筋の外側で、腹横筋が欠損もしくは脆弱となっている部分に起きるヘルニアです。

2-4 腹壁瘢痕ヘルニア

手術の傷によって腹壁を支える筋膜に脆弱な部分、そこから欠損部ができ、ここに腹膜に包まれた内臓が突出します。
手術後に傷が化膿したことが原因となることが多く、これにともなうおなかの中の癒着(傷に内臓が付着すること)が高率に見られます。

2-5 傍ストマヘルニア

直腸がん手術などで作られた人工肛門(ストマ)の脇から内臓が突出する状態です。ストマの脇の皮膚が腫れてくるため、ストマ管理が困難になる場合があります。

2-6 腹壁ヘルニアに対する手術

治療は手術によってヘルニア門を塞ぎます。以前はヘルニア門を糸で縫い合わせて閉鎖する方法でしたが、腹圧がかかって再発するケースが頻繁にみられました。
現在は、ここでもメッシュを使用してヘルニア門全体を広く覆いヘルニア門を閉鎖する方法が主流となり、さらに腹腔鏡下手術も広く行われるようになりました。メッシュを用いた方法はヘルニア門を縫い合わせる方法と比較して再発が少ないとされており、また腹腔鏡下手術では傷が小さく、整容性に優れている上に傷の感染が少なくなっています。

2-7 当科における腹壁ヘルニアに対する手術:内視鏡下修復術( (e-)MILOS/TEP)

現在我が国で広く行われている腹壁ヘルニアに対する腹腔鏡下手術(IPOMもしくはIPOMプラス)は、メッシュを腹腔内に露出させるようにしてヘルニア門をふさぐため(アンダーレイ・メッシュ)、手術後に癒着が生じて合併症の原因となることが懸念されてきました。また、IPOMプラスでは、メッシュを貼る前にヘルニア門を無理やり縫い閉じるため、手術後長期にわたる著しい痛みも深刻な問題でした。
これらを受けて、数年前より欧米を中心に“腹壁再建”という理論に基づく腹壁内にメッシュを留置するサブレイ・メッシュという方法が広まり、当科ではこれを採用しています。
まず、傷はヘルニア門にあわせて3~5cmとし、ヘルニア門に沿って腹筋(腹直筋)とその下(腹膜と筋膜)との間にスペースを作り、腹膜と筋膜で腹腔を縫い閉じたのちに、その上、すなわち腹直筋の下にメッシュを敷いて腹壁を補強します。そして、腹直筋の上の筋膜と皮膚をそれぞれ縫い閉じます。
メッシュを敷くスペースを作る際、小さな傷から見渡せる範囲には限界があるため、傷に専用の器具をはめて腹直筋と縫い閉じた腹膜との隙間を炭酸ガスで膨らませ、内視鏡の映像を見ながら手術操作を行います。
いわば腹壁を“2枚おろし”にし、それぞれで縫い閉じることにより手術後の痛みが穏やかになり、また、メッシュを腹壁内に敷くことにより癒着も起こりません。しかしその反面、手術創感染や内出血など新たな合併症のリスクがあり、これらに注意しつつ治療にあたっております。
また、がんに対する手術から間がない場合や若年者においては、後々の開腹手術の可能性を考慮し、”2枚おろし”にして腹壁を縫合閉鎖するのみでメッシュを用いない方法(non-mesh MILOS)を優先しています。

2-8 腹壁ヘルニアに対する手術前のプレハビリテーション

腹壁瘢痕ヘルニアをはじめとした腹壁ヘルニアに対する手術は、再発率が高く、報告によれば20%を超えるともいわれています。このため、再発の原因となりうる状態を手術前に是正することの重要性を欧米ではプレハビリテーションとして提唱されており、当ヘルニアセンターでも積極的に導入しています。主な内容は以下の通りです

  • 糖尿病の厳正なコントロール
  • 高度肥満に対するダイエット(栄養指導・運動療法など)→目標BMI<28(栄養科とコラボ)
  • 禁煙
  • CTや超音波検査を用いた腹壁(主に腹筋)の評価ならびに増強(リハビリテーション科(理学療法)とコラボ)

原則として、これらが実現するまで手術は待機することになります。もちろん嵌頓などで余儀なくされる緊急手術はその限りではありません。

BMIとは
ボディ・マス・インデックス (Body Mass Index) の略。
「体重 (kg) ÷身長 (m) ÷身長 (m)」で算出されます。肥満度を測るための国際的な指標。22を「標準体重」とし、18.5未満なら「低体重」、18.5以上25未満を「普通体重」、25以上を「肥満」としています。

2-9 腹壁ヘルニア手術後のリハビリテーション

手術においては、術前に認めた腹筋の欠損を修復、補強するため、症例に応じて手術直後から腹圧のかけ方を指導し、日常生活へ復帰する際の動作について、指導・アドバイスを行います。

退院後の外来通院の際にも、必要に応じて継続します。

最後に

ヘルニアはがんなど悪性疾患とは違い、必ずしも生命に危険をもたらす病気ではありません。しかし、自然に治ることはなく、放置すれば大きくなって増悪し、さらには嵌頓を起こす危険性があります。
治療法は手術しかありません。手術の負担は、腹壁の病気であることから腹腔内の手術に比べると概ね小さく、嵌頓の際には、腸管切除や腹膜炎手術となり、さらにはヘルニアに対する治療方針も変わるといった不利益が生じます。
以上より、膨隆を自覚している、出来上がったヘルニアには手術をお勧めしています。ただし、心臓はじめとした臓器に持病がある方、そしてそれらが隠れていて自覚しておられない方には、あらかじめ検査で状態を評価したうえで手術の是非を判断します。そして、病状と手術について丁寧にご説明し、ご理解いただいた上で手術を行います。
またヘルニアには、膨隆を自覚しないが痛みや違和感があるといったきっかけで受診されるケースもあります。これは腹壁の緩みからくる症状で、触診やCT検査で診断できます。
以上のようなヘルニアを疑う症状があれば臆することなく受診されますことをお勧めします。
また、ヘルニアセンターでは、骨盤底の筋肉が弱くなることにより肛門の活躍機能が低下し、さらに直腸が裏返って肛門から突出する直腸脱という病気も対象にしています。これにも腹腔鏡下でメッシュを用いた手術が効果的です。お悩みの方はぜひご相談いただきたいと思います。
ヘルニア、直腸脱ともに、外科医にとっては登竜門となる、いわば基礎となる病気であり手術でありますが、そうであるがゆえに、高いクオリティーの診療を維持していきたいと考えております。

ヘルニアセンター科長
植野 望